私は10日遅れで『あの日を境に』というブログからこの連載を知ったのですが、やがて朝日新聞で直接読むようになり、バックナンバーの書籍化を知ってそれも一昨日買いました。
連載当初から、多くのブログで紹介され反響を呼んでいました。
「テレビでは報道されない生々しい現実を、朝日新聞はよくぞ書いてくれた」と。
けれども、書籍化された『プロメテウスの罠』は、朝日新聞の子会社(株式会社朝日新聞出版)から出版されたのではなく、『科学と学習』『大人の科学』で有名な学研(株式会社学研マーケティング)からの出版です。
なぜでしょうか。
新聞社みずからが堂々と出版しなかったことに、出版界の闇の部分を想像させられます。
第1シリーズの「防護服の男」では浪江町の山間部で人々が逃げ惑うさまを、菅野みずえさんという一人の女性に焦点を当てて書いた。この章に「三瓶さん」という女性が登場したときはドキリとしました。読売系のテレビ番組『ザ!鉄腕!DUSH!!』のダッシュ村でお馴染みの「明雄さん」と同姓です。
『プロメテウスの罠』あとがき より
そのことから、この章の舞台になった浪江町がダッシュ村の所在地だということに気付きました。
現地をご存知らしいかたのネットコメントによると、浪江町周辺で三瓶という名前は珍しくないのだそうです。
第2シリーズ「研究者の辞表」は、国の研究機関を辞めて現地に飛び込んだ木村真三さんを縦軸に、SPEEDI(放射能拡散予測)などの情報が国民に届かない構図に迫った。SPEEDIの情報が日本政府ではなく米国にばかり流れていた件は、すでに散々言われてきたことです。おかげで私も、初夏のころにはすっかり文部科学省を信用しなくなりました。
『プロメテウスの罠』あとがき より
この本には、なぜそんな情報伝達の停滞が起こったのかが、具体的に書かれています。
文科省だけでなく、SPEEDIのフル活用を国の中枢に進言すべきだった原子力安全保安院(経済産業省)の責任の重さもわかります。結局、SPEEDIを所轄していたのが原発推進側の組織であったというところに大きな間違いがあったのでしょう。「こんな大事故が起こるはずない」というパニック心理や、あくまでも「原発は危険ではない」ということにしたかった気持ちが、その口を閉ざさせたとしか思えません。
SPEEDIなどの危機管理システムは、原発の危険を本気で憂う組織の管理下に置くべきだという教訓です。
第3シリーズは「観測中止令」。気象研究所が60年続いてきた放射能の測定を3月末で停止させようとした話を振りだしに、研究データは誰のものかを考えた。この話は、日本気象学会の新野宏理事長(東京大教授)が学会員に放射性物質予測の公表自粛を呼びかけたこと(2011年3月18日付)を、思い起こさせました。
『プロメテウスの罠』あとがき より
一般市民の感覚として、この人たちには愛国心や正義感のようなものがないんじゃないかと、怒り…切なさ…呆れる気持ちが交錯します。
第4シリーズ「無主物の責任」と第5シリーズ「学長の逮捕」は内部被曝という難しい問題を俎上に載せた。福島第一原発が爆発したとき、一番に脳裏に浮かんだのは、かつてチェルノブイリ原発事故の影響でイタリア産スパゲッティから放射性物質が検出されたことでした。
『プロメテウスの罠』あとがき より
チェルノブイリとイタリアは、北海道と沖縄ほど離れています。この事実に、ぞっとしないわけがありません。日本中が汚染される可能性におびえ、海外への避難も視野に入れつつ、ネットやテレビにかじりついたものです。
そんな私にとって「とりあえず県外に脱出しよう」と考える福島県民の少なさが、当初はものすごく不思議でたまりませんでした。
第6シリーズは「官邸の5日間」。4月以来、国の原発対応が杜撰だった点を首相の責に帰す報道が続いていた。第2シリーズの取材をしていて感じたのは、それへの違和感だった。ことはそう単純ではないのではないか、と。同じ疑問を、私も5月のブログに書いています。
『プロメテウスの罠』あとがき より
もし自分が日本の総理大臣だったら、原発事故の対応責任者として何を思い何を目指すだろう。そのとき電力会社は何を言うだろう。この両者の意思疎通が、噛み合うわけなど、ないのではないか…。私のばあい、疑問の出発点はそこでした。
本になった『プロメテウスの罠』をあらためて読みながら、何度か目頭が熱くなりました。
私の国はこの程度のものだったという落胆。日本人としてのプライドも何もあったもんじゃないと。
娘は、この本を手に取って一時間ほど読んでいましたが「気分が悪くなった」と途中でやめて私に返しました。「ママはネットでずっと調べてたから、知ってる話ばかりなんだろうけど…」とショックを受けた様子でした。
でも、これが日本。
これが今の日本。
けれども、読み終えて本を閉じると、感謝したい人物がたくさんいらっしゃることにも気付きます。
東電の事故現場撤退を拒否し続けた、当時の官邸の皆さん。
手動のベントに命をかけてくださった(名前も公表されない)作業員さんたち。
次から次へと考えうる限りの対応を続けてくださった福島第一原発の吉田昌郎所長と、衣食住のままならない環境で踏ん張ってくださった現場の皆さん。
公開されない数値データを国民に知らせることで、避難を促してくださった方々。
『プロメテウスの罠』を世に出してくださった皆さん。
本当にありがとうございます。
日本人としてのプライドを揺さぶり起こし、私はこの国のために何ができるだろうかと思います。
※出典・参照(2012/05/18更新)
・プロメテウスの罠
[朝日新聞DIGITAL プロメテウスの罠 web新書 1~4部 各210円 試し読み可]
[ショップ.学研 単行本 プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実 1300円]
[AMAZON 単行本 プロメテウスの罠: 明かされなかった福島原発事故の真実 1300円]
・福島県に住むref*e*_signさんのブログ
[あの日を境に]
・原発利権のジャーナリストいじめ
[2012/05/07 田中龍作ジャーナル 原発利権追及した記者に6,700万円の損害賠償請求]
・ダッシュ村と福島県双葉郡浪江町
[2011/04/04 新発想ビジネスヒントフォーラムWEB2.0 反原発農民の存在に「敬服」]
[2011/03/16 東京スポーツ 城島〝DASH村〟で被災]
[2011/04/25 スポーツニッポン 山口&城島 震災時、福島の「DASH村」でロケだった]
[2011/06/22 読売 日テレ系 DASH村も被災地]
[2011/08/26 サンケイスポーツ 山口達也、涙…DASH村にヒマワリ植えた]
・出し惜しみの拡散予測情報
[2011/04/02 19:25 朝日 放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員]
[2011/04/26 00:03 TV朝日 批判相次ぎ “SPEEDI”の情報毎日公表へ]
[2011/09/10 00:30 MSN産経 文科省がSPEEDIを毎時公表へ 福島県民からの指摘に対応]
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